【感想】 無能なナナ 10話 明らかになるナナしゃんの悲しい過去 そしてミチルちゃんいい子過ぎて幸せになってほしい

ジン「さて、君は一体誰に電話を掛けようとしていたのかな？」

ナナ（慌てるな…。考えろ…）

ナナ（橘はこれまでの能力者より、数段上の化け物だが無敵ではないはずだ…）

ジン「通話はすぐに切られてしまった。合言葉でも必要だったのかな？」

ナナ（本当にこの世のありとあらゆる能力を使えると言うのなら、こそこそと私などに構わずとも、時間を超え、空間を飛び、人を操って委員会の存在に迫っているはず…）

ナナ「私に変身しなかったのは何故です？」

ナナ「先輩を侮っていたのはお詫びします。しかし先輩は、昨夜から用心深く私の能力を探っていましたね？」

ナナ「私の能力を知りたければ、私に変身すればよかった。貴方は変身先の能力使えるのだから…」

ジン「推定殺害人数…？」

ナナ「ぐっ…」

ナナ（橘は不審者だ。寮まで逃げ込み、クラスの連中に協力を仰ぐのが手か…？）

ナナ「きゃぁああああああ！！！」

ナナ「はぁ…はぁ…」

ジン「すまない。能力のコピーは出来るが、手加減には慣れが必要でね」

ナナ「くっ…」

ジン「五年前、クラスにもありがちな病気にかかった子がいた。自分は天界の大天使に選ばれた戦士であり、地獄の軍勢の手先であるお前たちを殺すのだ、と…」

ジン「推定殺害人数などと言う妄想の産物を見せつけられて、君もその手合いかと疑ってしまうが…」

ジン「この端末を君に支給した何者かがいるという事実は見逃せない」

ジン「その何者かに、助けを求めた方がいいのではないかね？」

ナナ「…」

ナナ「先輩は…、佐々木ユウカには変身できないんですか？」

ナナ「ご存じでしょうが、彼女は死体の記憶を引き出す事が出来たそうです。私を知りたければ、さっさとゾンビにしてしまえばいいのでは？」

ジン「フフッ…。素敵な女の子だ。この状況でもまだ相手の弱点を探そうとする」

ジン「君の家族構成は？」 

ナナ「そんな事聞いてどうするんです？」

ジン「君の口を恐怖や苦痛でこじ開ける事はできまい。ならば、これからじっくりと信頼関係を築こうじゃないか」

ナナ「話せば見逃してくれるとでも？」 

ジン「今夜のところは…」

ジン「ナナ。私は君を気に入っている。五年前、私は相手をよく知ろうともせずに殺しまくった」

ジン「君も知っての通り、殺人鬼に最も必要な素質は、他人を物だと思えることだ」

ジン「私に同じ過ちを繰り返させないで欲しい」

ナナ「……」

ナナ「父と母と、歳の離れた兄がいたそうです」 

ジン「なぜ添文形なのかな？」 

ナナ「覚えていないのです。兄は私が物心つく前に家を出ていましたから…」

ジン「ご両親は何を？」 

ナナ「父は能力者関連の庶務を扱う省庁に努めてました。母は幼稚園の先生です」

ナナ「二人とも殺されました」

ジン「誰に？」

ナナ「陰惨な悪意を持った『人類の敵』によって…」

ジン「トラウマを語っているにしては、眉一つ動かさないんだね」 

ナナ「過ぎた事に手が届かないのです」

ナナ「私たちは人間ですから…」

ナナ「生き返らせたり、時間を巻き戻したりしてはいけないのです」

ジン「君の言う人類の敵とは、まさか能力者の事ではあるまいね？」

ナナ「…」

ナナ「…」

ジン「眠る前に信頼の証として、私からも一つアドバイスしておこう」

ジン「この島には、元々能力にうぬぼれの強い子供が集まっている。彼らに失敗や挫折を与えてくれる親や教師もいないのだから、仕方ないと言えば仕方ないのだが…」

ジン「そこに死体が出たりするとね…」

ジン「おかしな子が増えてくるよ」

ジン「気を付けたまえ。殺人鬼は君だけではないかもしれない…」

ナナ「…」

ナナ「ミチル…ちゃん…」

ミチル「はぁ～…！ナナしゃぁぁん！！」

ミチル「心配しましたぁ～～～！」 

ナナ「わ、私は何故ここに…」

ミチル「えと、夜中に物音がしたと思ったら、ナナしゃんがお部屋の前で倒れてて…っ！」

ナナ（橘は、私をここまで運んで…？）

ミチル「人類の敵に襲われたんですかぁ～？」 

ナナ「え…ええ…」

ミチル「私も朝、学校に行く前にひどく眠くなっちゃって、起きたら夜になってて…。変だなぁって思ってたら…」

生徒『えっ、今日学校来てたよね？』 

ミチル『えっ！？』

ミチル「日中、私の偽者さんがいたらしくてー…っ！！」

ナナ「その偽者を追いかけてたら、逆に返り討ちに遭いまして…」 

ミチル「えっ、そうだったんですか…」

ナナ「ありがとう、ミチルちゃん」

ナナ「ずっと看病してくれてたんですね」

ミチル「よかったです！」

ナナ（こういう時の為に、ミチルを生かしておいてるんだ…）

ミチル「ナナしゃんは本当に強い人ですね。中島くんがいなくなって、ユウカちゃんも亡くなって、なのに一人で頑張ってます」 

ナナ「リーダーですからね」

ミチル「どうして、そんなに頑張れるんですか？人類の敵が怖くないんですか？」

ナナ「…」

ナナ「怖くなんてないですよ…」

ミチル「ぇ…」 

ナナ「ぁ…」

ナナ（しまった…。思わず…）

ナナ「ごめんなさい…。実は、私の両親は人類の敵に殺されてしまったんです…」

ナナ「ですので、怖いと言うよりもやっつけてやりたいと言う気持ちが強いですね」

ナナ（今となっては、恨みも悲しみも無い。無いが…）

ナナ（この手の話は、聞く者にとってはわかりやすくていい。今後、血気に逸った私が１人で先走っても仕方ないと思わせる狙い…）

ナナ「…」

ミチル「ぅぅぅ…」 

ナナ「えぇ…っ！？」

ミチル「ごめんなさい！私、嫌な事を思い出させちゃってぇ～…！！」

ナナ「い、いいんですよ！ミチルちゃんのせいじゃないです！」

ミチル「ちょっと顏洗ってきますー！」

ミチル「うわぁああああん！ナナしゃぁぁぁん！！」 

ナナ「えっ…！？」

ミチル「私…、ぅ～…ええ～ん…」

ナナ『はぁ…はぁ…はぁ…』

ナナ『誰か…、助けて…』

ナナ『助けてぇ！』

ナナ『パパと、ママを…！』

ナナ『助けてぇぇえええっ！！』

ミチル「…」

ミチル「すみませんでした…。でも、もし良かったら何でもお話しして欲しいです！」

ミチル「ナナしゃんは、転校してきてからずっと頑張ってます！昨晩だって、大怪我をして戻ってきて…。なのに頑張ってて…！」

ミチル「えと、一人は辛い事もあるでしょうし、私で良かったら…。ですけど…」

ナナ「簡単に言えば、夜中自宅に強盗が入ったんです。朝起きたら、お父さんもお母さんも殺されていました」

ミチル「強盗…？強盗が人類の敵だったんですか？」 

ナナ「ええ、まあ…。人に化けていたと言ったところでしょうか」

ミチル「それでナナしゃんは、頑張ってるんですね」 

ナナ「ハリキリ過ぎて、キョウヤさんには疑われる始末ですけど」

ミチル「ひどいですね。そうでしたか…。ナナしゃんが無茶してしまうのは、そゆことでしたか…」

ナナ「ミチルちゃんは本当にいい人ですね」

ナナ（つい気を許してしまいそうになるが…）

ナナ（裏があるのだろうな…。ユウカのように…）

ナナ「はぁ…」

ナナ「酷いのは、その強盗犯よりも自分ですけどね」

ミチル「？」

ナナ「両親が殺されたのは、私のせいなんです」

ミチル「え…と…」

ナナ「すみません。まだちょっと背中が痛いんですが…」

ミチル「ぁ…。ああ…、はい！」

キョウヤ「ツネキチは病死だったらしいが、今度は殺しだ。アンタらも怖くならないのか？」

先生「次の定期船が来るまで、学校は休みになったよ。これからは、上の人間の判断を待って、大人しく…」

キョウヤ「その上の人間に今度電話が繋がったら、俺に言え」

キョウヤ「俺が話を付けてやる。わかったな」

先生「やたらオラついてくるけど、君なんなの…？僕、先生だよ？」

女『じゃあナナちゃん？ナナちゃんは、あの晩もお部屋の窓の鍵閉め忘れちゃったの？』

ナナ『ちゃんと鍵かけたか確認してから寝なさいって、パパにいつも怒られてた』

女『犯人は、子供部屋の窓から侵入したとみて間違いないですね』

ナナ『っ！』

男『馬鹿！被害者の子供の前だぞっ』 

女『あ…』

ナナ（ミチルに口を滑らせてしまったばっかりに、余計な事を思い出してしまったな）

ミチル「はぁ…はぁ…」 

ナナ「どうしました…？」

ミチル「えっ、何でもないです…」

ナナ「具合悪いんですか？」 

ミチル「いえいえ」

ミチル「私がもっと能力を磨いておけば、ユウカちゃん達も助けられたかもな…と」

ナナ（能力を使うと、寿命が縮むらしいな。それと関係しているのか知らないが…）

ナナ（何でもないと言うなら、放っておくぞ…）

ナナ（さて…）

ナナ（これからどう動くかな…）

ナナ（これまでの様に、差し迫って私を脅かそうとする能力者はいなくなったようだ）

ナナ（いいや…）

ナナ（妙なのがいたな…）

ジン「すっかり良くなったみたいで安心したよ」

ナナ「どうせ助けて下さるなら、橘先輩が傷を癒してくれても良かったんですが」 

ジン「君の体を舐め回せと？魅力的な提案だが、ミチルちゃんの能力は奇跡に近くてね…。私の様なモノマネ芸人の体には堪えるのだよ」

ナナ「つまり貴方は、変身先の能力者の能力を使えるが、同時にその代償も引き受けてしまうと解釈していいんですね」

ジン「私の弱点の内のひとつがわかって、満足したかね？」

ナナ「ついでにあの端末を返して頂けると、嬉しいのですが？」

ジン「いいとも？君がまた一つ素顔を覗かせてくれるのならね」

＜ノックの音＞ 

ミチル「ナナしゃん…。ナナしゃん、ちょっといいですか？」

ミチル「夜中にすみません。お怪我の具合どうかなと思いまして…」 

ナナ「ばっちり大丈夫ですよ？」

ミチル「お邪魔してもいいですか？最近、事件続きで物騒ですし…」

ナナ「別にいいですけど…」

ジン「ニャー」

ミチル「あっ、誰かいるのかと思ったら猫ちゃんでしたか」 

ナナ「～～～」

ミチル「そう言えば、ナナしゃんのお部屋に入れてもらうの初めてです」

ナナ「ミチルちゃんが初めてですね」

ミチル「…」

ナナ（急に何だろうな…。ミチルに何か感づかれたという事も無いだろうが…）

ミチル「キレイなお部屋ですね。何と言うか、頭のいい人のお部屋という感じがします」 

ナナ「はぁ…」

ミチル「む、昔からそうだったんですか？」

ナナ「心の声が聞こえました。私の子供の頃の話をまだ聞きたいという事ですね」

ミチル「あ…」

ミチル「すみません…、今朝のお話が気になってしまって。ナナしゃんが言ってた自分のせいって何だろうなって…」

ナナ「意味深な事を言って、すみませんでした」 

ミチル「ナナしゃん、いつもニコニコしてるのに…。その時はちょっと違ったので…」 

ナナ「でも話したら、ミチルちゃんに嫌われるかもしれません」

ミチル「そんな事絶対にないです！私は、ナナしゃんの力になりたいんです！」

ジン「ニャー！ニャー！」

ジン「ニャー！ニャー！」

ミチル「ほらっ、猫ちゃんも聞きたいみたいですよ？」 

ナナ（本当に聞きたがっているのだろうな…）

ナナ「…」

ナナ「どこにでもいる普通の女の子でしたよ？」 

ミチル「ナナしゃんも、おままごととかお人形遊びとかしてたんですか？」 

ナナ「小学校の時に、好きだったのはゲームです」

ミチル「テレビゲームですか？」 

ナナ「いえ…」

ナナ「将棋、囲碁、チェス…ですね。誕生日が来る度に、親に新しいセットを買ってもらってました」

ミチル「渋いですね。お友達の間で流行ってたんですか？」 

ナナ「一人でやってました」

ナナ「学校の男の子は、私と対戦すると『二度とやらない』と怒り出してしまったので」

ナナ「本当はポーカーや麻雀もやりたかったんですが、あれは一人では出来なかったので断念しました。おはじきを使った自作の陣取りゲームも考案しましたねー。一人用なのですが、これがなかなかの力作で…」 

ミチル「どこにでもいる女の子…。ですかね…？」

ナナ「後片付けをしない悪癖がありましてね。私の子供部屋は、いつも散らかってました」

ナナ「将棋やチェスの駒、おはじきが床一面にばら撒かれてて、足の踏み場も無かったです」

ミチル「物事にのめり込んでしまうタイプだったんですね」 

ナナ「漫画にものめり込んでましたね。あの夜もそうでした」

ミチル「あの夜…？」

ナナ「両親が殺された夜です」

ナナ「あの夜も、私はゲームで遊ぶだけ遊んで、夜更かししていました」

ナナ「そして深夜、両親が寝るのを待って部屋の窓から外へ出たんです」

ミチル「お部屋の窓から？どちらへ？どうして…」 

ナナ「近所のコンビニです」

ナナ「楽しみにしている漫画雑誌が、いち早く届くお店でして…」

ナナ「よく私は両親の目を盗み、小銭を持って夜道を走ってました」

ミチル「ナナしゃんが夜行性なのは何となく知ってましたが、小学生が深夜に１人で出歩くなんて危ないですよ…」 

ナナ「帰って来た私は漫画を読みふけり、そのまま着替えもせずに寝てましたね。とにかくだらしなかったんです」

ナナ「だから、窓の鍵だって閉め忘れていました」

ミチル「窓の鍵？」 

ナナ「あとで警察の方から聞いたんです」

ナナ「強盗犯は、私の部屋の窓から侵入したんだと…」

ナナ「馬鹿でしたね…。きっと強盗犯は、夜道を走る小学生の女の子をよく見かけていたのでしょう。戸締りの甘い家だと、予め下調べしていたのでしょう」

ナナ「親にもよく言われてたんです。お部屋を片付けなさい、戸締りを確認してから寝なさいって。でも私には、親の小言よりもゲームや漫画の次の展開の方が、気になって仕方なかったんです」

ナナ「そして、朝起きたらリビングが静かだなって思ったんです」

ナナ「いつもはお父さんがテレビでニュースを見てるはずなのに、お母さんが朝ご飯を作っている匂いがするはずなのに」

ナナ「なのに…、血の匂いと物言わぬ生首が…。私を待っていて…」

ナナ「だ、だから…。私は…。私のせいで…、あんなことに…」

ナナ「ひっ！」

ナナ「…」

ナナ「…」

ミチル「…」

ナナ「ミチ…」

＜ドアを叩く音＞ 

ナナ「！」

キョウヤ「入るぞ」

ナナ「キョウヤさん！ここは女子寮だと言ってるじゃ…」

キョウヤ「お前さん、昨夜は犬飼と一緒だったのか？」 

ナナ「えっ？あ、はい…。ですよね、ミチルちゃん？」

ミチル「お泊りさせてもらってました」

キョウヤ「とりあえず付いて来い」

ナナ（何が起こった？まさか…）

モグオ「あ、戻って来た」

キョウヤ「誰も部屋に入れてないだろうな？」 

モグオ「お、おう…」

モグオ「言われた通り、お前を待ってたぜ…」

キョウヤ「見ての通り…。また死体が出た」

キョウヤ「どうする？リーダー」

ナナ（私ではない…）

ナナ（私以外に殺人犯がいる…、というのか…）